『未知との遭遇』
国際空港に着き、搭乗までの幾ばくかの時間を利用してトイレに向った。
無頓着に扉を開けると、そこはまさしく異文化への入り口だった。
齢 (よわい) も半世紀になろうという人生で、初めて目の前に飛び込んできた風景を見て、私はとても狼狽した。
周りを見渡しても説明書きもなにも無い。どうしよう・・・
すると、壁にアラビア語らしき落書きを見つけた。
多分、日本といっしょで、卑猥なことが書いてあるのだろうと思ったら、ほくそ笑んでしまった。
そうか! 落書きがこちら側にあるということは、頭はこちら側で、ステップはここなのか!!
探偵気取りで自分自身を納得させ、しばし異文化と交流をしてみた。
感動とは違う、きちんとした言葉では表現できない、何かを感じ取ったことは確かだ。
交流が終わり、鏡の前で念入りに手を洗っていると、スーツ姿の日本人駐在員らしき紳士がトイレに入ってきた。
私が軽く会釈をすると、彼は爽やかな微笑みを返しながら、何の躊躇もなく「あの」異文化の扉のほうに進んで行った。
颯爽と歩む彼のうしろ姿に、私は異国にいながら武士道を感じた・・・。